プロジェクトインタビュー:運動体設計
IAMASの教育の特色でもある「プロジェクト」は、多分野の教員によるチームティーチング、専門的かつ総合的な知識と技術が習得できる独自のカリキュラムとして位置づけられています。インタビューを通じて、プロジェクトにおけるテーマ設定、その背景にある研究領域および文脈に加え、実際に専門の異なる教員や学生間の協働がどのように行われ、そこからどのような成果を期待しているのかを各教員が語ります。
瀬川晃准教授、赤松正行教授、クワクボリョウタ教授

『かんしょうこう』 スイトピア×イアマス連携展示《うごキズム》~うごく?うごかす?うごきをみる~
- プロジェクトのテーマと背景について聞かせてください。
2016年から続けてきた任意グループ「クリティカル?サイクリング」と昨年度私と赤松先生、松井先生で行った萌芽プロジェクト「プラクティカル?サイクリング」を基盤として、身体を動かすことから主題を見つけ、そこで得られた知見の共有を実践しています。
プラクティカル?サイクリングでは、自転車などの「移動体」を対象として新しい表現手法を探求してきましたが、このプロジェクトでは「運動体」を「時間の経過とともに空間内の位置を変える現象や活動」と定義し、対象を広げています。映像の中の動きも含まれますし、極端に言えば心の動きなど目には見えないものも含まれます。
ラースロー?モホイ=ナジの言葉に基づき、「知性と感情を、社会的要素と技術的要素のバランスを取った状態に保つこと」を出発点とし、アイデアを具体化するプロセスを検証し、公開することを目指しています。
みんなでヨガをして自分の身体に気づくところから始め、トレッキングや自転車のツーリングなど、個々の教員が主催するさまざまなアクティビティに取り組みました。

ラースロー?モホイ=ナジ
『Vision in Motion』

ツーリング
赤松 私は「ダークツーリング」をテーマに、福島の帰還困難区域や徳山ダム建設によって廃村になった地域、産業遺産など、負の遺産を巡る自転車ツーリングやトレッキングを実践してきました。このプロジェクトではアウトプット以上にインプット、身体に直接伝わってくる感覚を大切にしています。その中でも最近特に大事にしているのは「バランス感覚」です。バランスは五感には含まれない感覚です。現在のアートはほとんどが視覚や聴覚表現で、五感をベースにした表現が多い。バランスや身体感覚をベースにしたところから新たな表現が生まれるのではないかと期待を持って取り組んでいます。テクノロジーも同様で、身体感覚のテクノロジーはほとんどないので、そこに可能性を感じています。
クワクボ 私は前年度に「共同身体性オンライン」プロジェクトで、複数人で一緒に装置を操作するという「なのはな体操」という作品を制作しました。共同身体性は運動体設計と関連する部分が多いので、このプロジェクトに参加しました。「なのはな体操」で使用した2mくらいのマペットを複数人で動かすワークショップなどを実施しました。
- プロジェクトの成果展示として、大垣市文化事業団の連携として2024年9月に大垣市スイトピアセンター アートギャラリーで、『スイトピア×イアマス連携展示 うごキズム ~うごく?うごかす?うごきをみる~』で3つの作品を展示しました。

『スイトピア×イアマス連携展示 うごキズム ~うごく?うごかす?うごきをみる~』展示会場
瀬川 それぞれの教員がファシリテーションし、学生と共同で3つの作品を制作しました。『かんしょうこう』は1人の学生と私で作りました。モアレ?トポグラフィーという、立体物へスリット越しに光を当てると、縞模様と影が干渉して、等高線のような模様ができる現象を応用しています。
展覧会会場であるアートギャラリーにあるガラスケースの中に布や紙を垂らしたり、立体物を置いたりして、そこに光を投影して形を浮かび上がらせる。鑑賞者が動くことによって見え方が変わるので、作品側に鑑賞者が動かされているような、ある種のインタラクティブ性を持っています。私たちがどのようにものの形を認識しているか考察するような作品です。
赤松 3人の学生と共同制作した『うごキスト/Ugokist』は、24台のカメラで撮影した映像を24台のディスプレイで映し出し、鑑賞者の動きによって変化するインタラクティブな作品です。24台のiPadは独立して動いていますが、全体として連動していると感じられる自律分散協調型の表現を追求しました。
もう一つのテーマとして、この作品のすべてのプログラム?コードを生成AIで書くということを試みています。人間は一行もコードを書いていません。生成AIはどんなことでも実現できると考えられていますが、実際には的確な指示を与えなければ動くプログラム?コードは完成しませんでした。何を実現したいのか、それを発想する能力、言語化する能力がないとAIといえども何もできないということが明らかになったのは面白い体験でした。このプロジェクトは身体性がキーワードですが、AIは身体を持っていません。この点もキーになりそうだなと感じました。
うごキスト / Ugokist
クワクボ 私がファシリテートした『スマホスタジオ』はスマートフォンを台車に載せて展示コースを走らせ、ドリー撮影ができる作品です。
今はだれもが肌身離さずスマホを持っていて、展覧会でも自分の目で作品を鑑賞するよりもカメラを通して作品を見ている人が多くいます。それならば、作品をすべて撮らせてあげようという風刺的な作品です。
この作品の肝は3mくらいのコースを2分間かけてゆっくりと進むことです。その2分間は台車にスマホを載せているので、鑑賞者は自由に撮影することができません。以前から温めていた「鑑賞者からスマホを取り上げる」というアイデアを、運動体という視点で昇華させました。
学生には台車が走るコースをそれぞれ制作してもらいました。木琴のように台車の移動に合わせてスティックが地面を叩く作品や鏡を置いた作品など、同じプラットフォームを使って違う体験ができるコースを4つ用意しました。
スマホを使わせないのがこの作品のコンセプトでしたが、展覧会の初日に、中学生がカメラをフロントカメラに切り替えて自撮りを始めたんです。こちらの意図の上を行かれて、作品をハックされてしまうという予想外の体験をしたことは、非常に興味深かったです。
スマホスタジオ
瀬川 この展覧会は3500名を超える来場者がありました。鑑賞体験の観察やAIの活用を通じて、表現と技術の融合に関する新しい知見を得ることができました。次年度は身体や知覚などを対象として、理論研究と実践活動の相互作用をさらに深めていきたいと考えています。
インタビュー収録:2025年2月
※『IAMAS Interviews 05』のプロジェクトインタビュー2024に掲載された内容を転載しています。